Unfinished Business 仕事と家庭は両立できない?「女性が輝く社会」のウソとホントはアメリカ国務省政策企画本部長を務めた経験を持つアン=マリー。スローターさんが2016年に出版した本です。
300ページに及ぶ本作ですが、私の独断と偏見でザックリ以下に要約しました。
概要だけ知りたい方はザックリ要約だけ、詳しく知りたい方は更にその下に各章の要約も書きました。
興味に合わせてご活用して貰えれば幸いです。
ザックリ要約
(3つのウソ)
・女性神話のウソ (仕事、理想的な配偶者、仕事とプライベートの順番)
・男性神話のウソ (男らしさに縛られている男性自身)
・職場のウソ (長時間労働、フレキシブル勤務)
(競争とケア)
競争=利己的
ケア=利他的
ケアは競争で得た収益を、人との繋がりに変換する行為。競争とケアは人を成長させる両輪である=両方のバランスが大切
(ケアを活用するには)
話し方を変える=肯定的な発言を意識することで自己意識を改善
キャリアプランを立てる=定期的にパートナーと話すことで、互いの問題点を把握
職場を変革する=どうしたら結果が出るか、周囲と話すことを主導する
本の目次
1 女性神話のウソ
2 男性神話のウソ
3 職場のウソ
4 競争とケア
5 資産運用は子育てより難しい?
6 女性運動の次は男性運動
7 ありのままで
8 話し方を変える
9 キャリアプランを立てる
10 職場を変革する
11 思いやりのある市民になる。
各章要約
1 女性神話のウソ
この章で述べられているウソは以下の3つ。
・仕事を頑張れば全てが手に入る
・協力的な相手と結婚すれば全てが手に入る
・順番さえ間違えなければ全てが手に入る
もちろん個人で努力することを忘れてはいけないが、上記の思い込みを認識し、全体を俯瞰してみることがまずはスタート地点であると述べられています。
2 男性神話のウソ
この章で述べられているウソは以下の1つ。
・家族を養うのが男性の仕事
筆者が述べたいのは、性別における職業分担意識という社会通念が存在しており、男性、女性ともその価値観に縛られていると言っています。
この社会通念は例えば「結婚したい男性にとって家族を養うだけの経済力がどれくらい必要か?」という問いに対して2/3が極めて重要だと答え、逆に「結婚したい男性にとって家族を養うだけの経済力がどれくらい必要か?」という問い大切だと答えた人が1/3に留まったことからも分かると指摘されています。
3 職場のウソ
女性が主だった育児や介護(この二つをまとめてケアとします)の担い手として社会に認識されています。つまり社会認識における責任の所在が問題だと指摘しています。
男性の場合でも育児に責任を持って取り組んでいる人はストレスが高めであり、キャリア面で妥協を強いられる可能性が高いことがわかっています。
本当の問題は「育児や介護の価値が過小評価されている」ということで「誰がするかは」関係がないと筆者は述べています。
職場はそのことを認識しフレキシブルな働き方を解決策として用意しました。
しかし、これは根本解決になっていないと述べられています。
例え人事がフレキシブルな制度を導入しても昔気質な上司がいる場合、制度を活用する雰囲気にならず、「実行ギャップ」が生まれると語られています。
また長時間労働についても述べられています。
人間の集中力のには限界があります。本の中ではマイクロソフトの社員の報告事例が紹介されており、週45時間の勤務時間のうち生産性な時間は28時間という報告もあります。つまり残業した人に報酬を払うことは効率が大変悪い行為であると考えることができます。
4 競争とケア
競争:自身の利益を求めたい衝動=利己的
ケア:他者を自分より優先させる=利他的
本の中で多くの女性が、ケアの為に仕事を辞めて収入を失った時に誰でもなくなった感覚に陥りがちだそうです。言い換えれば収益を生み出す行為は現代社会において価値があるがケアは価値がないという社会の潜在意識が形成されているということでもあります。
また独身者、子供のいない夫婦のケアについても語られている。これらの人たちはケアの議論から省かれがちです。しかし、ボランティアや友人と共に過ごし相手をケアすることは意義のあることです。
そして最も理解が進んでいないのが自分のケア。自分をケアすることは、他者を思いやる心と身体を保つ大切な行動です。自分のケアがあってこそ、他者のケアができるのです。
5 資産運用は子育てより難しい?
この章の題目は筆者に対してケアの担い手は沢山いるが、資産運用など高度な知識を持つ人は少ない。よって需給の面から価値が低いという問いかけが元になっています。
まず資産運用など収益を得る仕事は価値を数値化することができます。対してケアは価値を数値化することができません。
ケアは収益を、人生に欠かせない人との繋がりに変換するということです。
そしてケアと競争はお互いを補完しあう関係にあるそうです。
6 女性運動の次は男性運動
いわゆるイクメンが娘と一緒に買い物に行くと「良い父親ね」と少し皮肉交じりで言われるというエピソードから始まります。
女性が社会的通念で縛られていたように、男性もまた「男らしさ」という呪縛に捕らわれています。筆者は男らしさを否定しているわけではありません。ただ、社会通念である「男らしさ」だけが評価基準ではなく、より多くの選択肢が男性にも与えられるべきだと述べられています。
7 ありのままで
「山のような思い込みや偏見や期待、ダブルスタンダードを捨て去ることができたら、可能性に満ちた新世界が待っている」という締めくくり述べられています。
8 話し方を変える
言葉遣いだけでは全ては変わらない。しかし話し方を変えると考え方が変わり、行動が変わる。もし社会をより良くし、人の価値と選択の価値の測り方を改善したいなら、あなたの望む変化に合うような言葉を使うことから始めよう。
9 キャリアプランを立てる
家庭と仕事の両立から起きるリアルな問題やトレードオフについてお互いが心を開いて話すこと、そして定期的に続けることが大切だと述べられている。
10 職場を変革する
企業側も社員と家庭とを上手く組み合わせることに対するメリットを理解してはいるが抜本的な背策が取れずにいます。そして、高度な技術を持った人材の獲得競争は今後ますます激しくなることが予想されます。
そんな流れの中、オンデマンド経済やオープンワークという新しい働き方が台頭しつつあり、個人の面からも職場環境を改善することが可能であること、その具体例が提示されています。
11 思いやりのある市民になる。
「 私たちは思いやりのある市民であることに誇りを持たなければならない。誇りを持って国を気遣い、お互いを気遣わなくてはならない。お互いを気遣うことができなければ、国として競争できないことを理解しなければならない。」という締めくくりで本書は終了します。
国と市民の関係について述べる点は政府関係者らしいコメントです。
まとめ
現実とのギャップについて「ウソとホント」という語り口で問題提起から始まりました。
中盤では「女性のキャリアと家庭」という問題を競争とケアのバランスとして再定義した上で、「ケア」の価値の理解と一歩を踏み出すためのアイデア例を示すという構成でした。
抽象的、答えのない話題も多く、本書を読んで明確な答えが得られるという作りにはなっていません。しかし、問題を認識し考えるきっかけをくれるという観点では非常に良い本だったと思います。